2010/10/10

定量補正計算1:ZAF補正;吸収補正(A)

どうも僕です.

次は,吸収補正です.

試料に侵入した電子は,原子による散乱を受けながらエネルギーを失っていきます.この散乱過程で電子殻の内殻をイオン化して特性X線を発生するのですが,特性X線の発生強度は深さ方向に分布を持った形と見なすことができます.そして,ある深さで発生したX線は,試料表面に放出されるまでに構成元素によって吸収を受けながら減衰していきます.この吸収量を補正するのが吸収補正(absorption correction)です.ちなみに,ZAF補正を回すときは,この吸収補正から計算を開始させます.
 X線の吸収量は,構成元素の質量吸収係数(μ/ρ)とX線検出器の取り出し角θで定義された変数χに依存します;
 χ=(μ/ρ)×cscθ
そして,ある深さρzで発生したX線は,exp(-χρz)の吸収を受けて強度が減少します.ちなみに,φ(ρz)補正法は,この吸収補正と原子番号補正をまとめて扱います.
 A元素の吸収補正係数GAAは以下のように表されます;
 GAA=fUnkAUnkA)/fStdAStdA)

原子番号補正の場合と同様に,f(χ)関数は多くの研究者によって提案されております.吸収補正係数GAAは,試料元素の質量吸収係数μ/ρと入射電子エネルギーE0に依存しているので,試料元素の原子番号が小さければ小さいほど,加速電圧を高くすればするほど大きくなる傾向があります.なお,X線検出器の取り出し角が低いほど吸収補正係数が大きくなります.

最も(たぶん)一般的なf(χ)関数は;
 f(χ)=(1+h)/((1+χ/σ)×(1+h(1+χ/σ)))
 σ=レナード定数(例えば,2.39×105/(E1.50-E1.5C(A)あるいは実験的に求められた表などを参考する
 hUnkorhStd=ΣCi×hi
 hi=1.2×A/Z2
などです.

テキスト入力ってたいへんだなw
おしまいw

定量補正計算1:ZAF補正;原子番号補正(Z)

どうも,おいらです.
最近ふと思ったけど,こういう記事を書く場合の英数字って,半角がいいのかな?全角がいいのかな?ただそれだけですけどね,,,

さて,今日は原子番号補正について書いてみようと思います.

試料へ照射される入射原子は,構成原子の相互作用により,試料内部へ散乱していく侵入電子と試料表面より外部に放出される後方散乱電子(backscattered electron)に分かれます.この割合は,構成原子と入射電子のエネルギーによって変化します.平均原子番号(=ΣCi×Zi)が大きい試料は後方散乱電子の比率が高くなり,平均原子番号が小さい試料は侵入電子の比率が高くなります.比率の違いは,発生するX線強度にも影響します.ある元素の相対強度を求めるときには,標準試料と未知試料の平均原子番号の違いが大きいほど,X線の発生に寄与する電子の数に影響します.この差による重量濃度と相対強度の間の関係を補正するの原子番号補正であります.
A元素に関する原子番号補正係数GZAは,以下のように表されます.
 GZA=(RUnkA/RStdA)×(SStdA/SUnkA)
  S=阻止能(stopping power factor)
  R=後方散乱因子(backscatter factor)

阻止能や後方散乱因子については,1960年代に数多く提案されました.その後にも,検討は続いております.たくさんの実験式がありますが,ここでは全てを網羅するのは大変なので,一部紹介してみます.

阻止能(stopping power factor)
 S=(Z/A)×ln(1.116×E/J)
 E=(E0+Ec)/2 電子の平均エネルギー
 E0=入射電子のエネルギー(加速電圧)keV
 Ec=臨界励起エネルギー(critical excitation energy)keV
 J=平均イオン化エネルギー(mean excitation energy) eV
  実験的に値が求められている
 Z=原子番号, A=原子量
以上のように,E, J, Z, Aの各値から元素毎の阻止能Sを計算します.そして化合物である試料の阻止能は,すべての構成元素のS値から計算します.未知試料のSUnkを求めるためには,すべての構成元素に対するここのSi値を求めて積み重ねて加算します;
 SUnk=ΣCi×Si=ΣCi×(Zi/Ai)×ln(1.166×E/Ji)

後方散乱因子(backscatter factor)
 RUnkA=ΣCi×Ri
 Rの値は,実験的に求められていたり,多項式によって表されたりしております.

ふう,大変w
おしまい

定量補正計算1:ZAF補正;概略

どうもボクです. 定量補正計算について書いてみることにしました.これが結構ながくなるんだわ.何回かに分けて書く予定.
前にも書いたけど,定量分析で元素の濃度を求めるには,未知試料に含まれる元素の特性X線強度と,同一の元素を含み化学組成が既知の標準試料の特性X線強度を測定します.その強度比K(relative intensity, K-ratio)は,次のようして表されます.
=IUnk/IStd
Unk=未知試料中のA元素の特性X線強度
Std=標準試料中のA元素の特性X線強度

さらに,元素Aの重量は
Unk=G×CStd×K
Unk=未知試料中のA元素の重量濃度
Std=標準試料中のA元素の重量濃度
G=補正係数

補正係数Gを求めるには,補正計算を実行しなければなりません.補正計算は,試料のマトリックス効果を補正する物で,全ての元素の相対強度をもとにして,補正計数Gをはじき出します.そのGを求める方法を補正計算法とか補正法とか呼ばれていまして,何種類か提案されております.一般的に利用されているのは,ZAF補正,Bence-Albee補正,φ(ρz)補正などがあります.

やっと本題ですが,ZAF補正(ZAF correction)は,三種類の補正を組み合わせたものであります.それらは,吸収補正(A:absorption correction),原子番号補正(Z:atomic number correction)そして蛍光(励起)補正(F:flourescence correction)と呼ばれていして,各々の補正係数を計算していきます.
未知試料中の元素Aの重量濃度CUnkを求めるには以下のような補正式で表すことができます.
Unk=G×G×G×CStd×K
=原子番号補正係数
=吸収補正係数
=蛍光(励起)補正係数
です.

各補正について,おいらは,そんなに詳しくないけれど,簡単に説明するとすれば,
原子番号補正(Z)は,試料への照射電子が侵入電子と散乱電子に分かれる比率を補正します.
吸収補正(A)は,試料中で発生した特性X線が試料外へ出るまでに吸収される量を補正します.
蛍光(励起)補正(F)は,試料中で発生したX線によって励起された蛍光X線強度を補正します.

タグうち疲れたから,今日はおわりw

EDXの定量分析手順

どうもボクです.

EDXの分析手順を簡単にフローチャートで書こうと思います.編集が面倒なんで,すべてテキストです;;

定量したい元素の確認

標準試料の選択

分析条件の設定

標準試料のスペクトラムの収集と保存

標準試料リファレンスファイルの作成

未知試料のスペクトラムの収集(と保存)

補正計算(ZAF, Bence-albee, φ(ρz))

定量結果

EDXを用いた定量分析では,定量したい元素のスタンダードファイルをあらかじめ作成・保存しておくひつようがあります.フツウは,定量したい元素って,だいたい決まっているから,それぞれの元素を含むような標準試料を用意しておけば良いと思います.また,X線発生の観点から言えば,標準試料と未知試料は似たような物質の方が良いと思います.例えば,未知試料が金属なら,標準試料も金属にするとか,,,,
 あと,未知試料をはかっているときに,予想外の元素を認識する場合があります.そういう場合は困りますね,,,標準物質を取り扱っているメーカーなどに問い合わせるのが一番いいと思います.

定量分析を行う際の基本は,未知試料のスペクトラムの収集と標準試料のそれの分析条件を完全に一致させることです.ここが一番難しい.使い方を習った程度で定量分析が行えるとはとうてい思えない.EDXに関わらず,あらゆる分析装置に共通するのではないでしょうか?ちゃんと目的意識を持ちながら分析に取り組むことが大切だと思います.

おわり

EDXの定量分析の歴史

どうも僕です.

何から書こうか迷う今日この頃です.EDXスペクトラムの波形処理について書こうか,そんなしょーもない事は無視して定量分析補正法について書こうか,迷ってます.まぁ両方書きたいんだけどね.優先順位を決めなきゃ・・・

定量分析も含めてEDXに関する歴史のおさらいでもしよう!

戦後1940年代に,フランス(だったと思う)のPh.D Studentだった,R.Castaingとその先生によって,SEM-EDX(WDXかも・・)の基本原理の発表がありました.本質的な部分は現在と変わっていないみたいです.

1950年代は装置の開発かな?日本やフランスやそれ以外の国でも開発に取り組んだはず.Castaingはフランス人だから,Camecaが現在でも有名なのはCastaingの影響力があったのかもねぇ....

1960年代になって,定量精度をもっと上げることが課題になったので,定量分析に関する研究が多数行われました.その成果として,ZAF補正やBence-Albee補正が誕生しました.

1970年代になって,大型コンピュータを使って定量分析の補正計算を処理するようになりました.たぶん,それ以前は,手計算だったのかも・・・

1980年代になって,コンピュータの処理能力が向上して,データ処理が容易になった

1990年代になって,φ(ρz)補正が提案されました(たぶん)

2000年代以降の歴史はよく知りません...

とにかくSEM-EDXの基本原理は戦後まもなく完成したって事は言えるでしょう.それ以降,現在に至るまでは,IT業界の発展と共にEDXの充実してきたって程度の認識でよいような気がします.

おしまい

EDXの定量分析2

どうも僕です

EDXによる定量分析には,大きく分けて二通りあります.一つめは,前の記事で書いた相対強度を求める方法です.もう一つは,実は標準試料を用いなくても定量分析が行えます.それをスタンダードレス法(standardless correction)と呼びます.

もう少し詳しく書くと,未知試料の各元素のX線強度から理論的に補正計算を行い,合計濃度が100%になるように定量分析値を出す補正方法のことをスタンダードレス法と呼びます.また,あらかじめ取り込んでおいた標準試料のX線強度を利用した半スタンダードレス法というものも考案されております.標準試料の特性X線を取り込む手間が省けるので,短時間で定量分析が行えるのがスタンダードレス法の利点であるのですが,正直言ってオススメできない.その理由は,誤差が大きすぎて「真」の定量分析とはほど遠い分析値しか得られないためであります(ブログ管理人の経験ですけどね).
 また今度,前の記事で書いた定量分析法とスタンダードレス法の分析値の違いについて触れておきたいと思っております.

さて,前の記事で書いた相対強度を求めてからの補正計算法なのですが,数多く提案されております.その中で有名なのが,
 ZAF補正
 Bence-Albee補正
 φ(ρz)補正
の3つです.また,あまり使われていないけど検量線法などもあります.

どの補正法を使うにしても,重要なのはX線スペクトラムの波形処理を正確に行うことなのです.波形処理が不十分であれば,正しい定量分析は行えないと思っております.まぁでも,それについてはユーザーサイドで要求する分析精度の程度に依存しますけどね.

次の記事からは定量分析(波形処理~補正計算)についてゆっくりと書いてみようと思います.

EDXの定量分析1

どうも,ボクです.

今日はEDXの定量分析について書いてみようと思います.

EDXでも他の装置でも,定量分析と言えば,未知試料(unknown sample)と標準試料(standard sample)の強度を測定して,その値を補正してから元素濃度を求めるのが一般的なやり方です.
 EDXによって取り込まれた特性X線の強度は,加速電圧や試料電流,検出器の取り出し角にとても依存しているので,これらの条件を同一にして未知試料と標準試料の特性X線強度を求める必要があります.また,若干ではありますが,炭素蒸着の厚さやユーザーの熟練度によっても分析値に影響が出てくるかもしれません.
 例えば,A元素について,未知試料の特性X線強度をIUnk,標準試料のそれをIStdとすれば,これらの比を以下の式のように表すことができて,それを相対強度KあるいはK-ratioと呼びます.
  K=IUnk/IStd
この相対強度K(A)に補正係数G(A)をかけると,A元素の濃度CUnkが求まります.
  CUnk=G×K

もう少し詳しく書くとすれば,補正計数G(A)は
  G=CStd×G(補正計算法によって得られた値)×G(ユーザーの熟練度)
と表現しても差し支えないかもしれません.

 最近のEDXをはじめとする数多くの分析装置では,G(ユーザーの熟練度)の部分をできるだけ1に近づけるような努力の集大成であるアプリケーションが導入されております.おそらくメーカー側は「誰にでも簡単にできる定量分析!」って感じでアプリケーションを開発していると思われます.これが良いのか悪いのかは,はっきりと申し上げられないけれど,基本的な定量計算法の手順は少しくらい理解しておいても損はしないかと思います.